手短に言えば
中国の公的医療保険(基本医療保険)は登記住民と納付履歴を前提とする制度で、短期の旅行者は対象外です。つまり受診は全額自費、しかも前払いが原則です。相場は、一般病棟の外来が受診全体で100〜300元、主要公立病院の国際医療部が300〜1,000元、入院はデポジット5,000〜20,000元を先に払う形式。一方で重症と搬送は桁が変わり、国外への医療搬送は5万〜20万米ドル。備えは一本で、医療補償10万米ドル以上に搬送と送還を含む旅行保険と、領収(発票)の原本を捨てない習慣です。
2026年にこれが意味を持つ理由
ノービザ入国の対象拡大と240時間の乗継で、一回の滞在が長くなり、旅の日程に食事・移動・気候の変化が積み上がりました。受診そのものは安く済む国ですが、費用構造が二極です。軽い外来はコンビニ食程度の支出で終わり、逆に入院・手術・搬送は家一台分に達します。公的保険がない前提に立つと「外来が安いから保険は不要」という誤った結論に着地します。判断の軸は外来ではなく、起こり得ないはずの搬送と長期入院を誰が払うかです。
主要事実の一覧
- 公的保険の適格性: 基本医療保険は居住登記+納付履歴が条件。旅行者は対象外
- 一般病棟の外来: 受付(挂号)10〜50元、風邪・胃腸炎の受診全体で100〜300元
- 国際医療部: 主要公立病院の外国人窓口。診療300〜1,000元、英語対応、カード可
- 私立国際病院: 北京・上海・広州・成都など。診療1,200〜2,000元、保険直接精算に対応する施設も
- 入院デポジット: 5,000〜20,000元を前払いするのが一般的
- 医療搬送(国外): 5万〜20万米ドル。保険の本丸はここ
- 出発前のビザ事情: 一回観光ビザ(L)はほとんどの国籍で CNY 1200(約 USD 165、国籍により USD 140〜185)。特急 +CNY 400 で2〜3営業日、標準は4〜7営業日(繁忙期は14日まで延びることも)。写真は 33×48 mm、センター撮影 CNY 35、サービスセンター手数料は国により CNY 20〜110。CVASC の持込行列は月曜の朝 09:00 前が最短。無ビザ対象外の追跡 25 か国(インド・米英露など)は事前ビザが必要です。空港〜市内の復路タクシーは CNY 60〜80
- ビザなし回数: 2026 年時点で 94 か国が 30 日無ビザ入国、240 時間の無ビザ乗継は 57 か国が対象。10 年マルチは1回の滞在 60〜90 日まで
受診の流れ
手順1: 受診先を選ぶ
軽症(喉の痛み、軽い下痢)は薬局か一般病棟、中等(高熱、強い腹痛、縫う外傷)は主要公立病院の国際医療部、重症は3級病院の救急か120番です。同じ病院でも一般窓口と国際医療部は建物も窓口も別で、混雑と価格が違います。
手順2: 受付(挂号)をする
旅券を提示して受付票を取り、受付料10〜50元を支払います。支払いは現金か Alipay/WeChat Pay が中心で、外国発行のカードは一般窓口では通らないことが多いです。国際医療部ならカードも使えます。
手順3: 診察と検査
診察の前に検査の支払いを求められるのが前払い制の流れです。血液検査やレントゲンは別窓で払い、結果を持って診察室へ戻ります。
手順4: 会計と領収(発票)
薬代を含む全額を会計窓口で払い、公式領収(発票)を受け取ります。感熱紙の受領書ではなく、正式な発票が保険請求の鍵です。受付・検査・薬ごとに発票が出るため、その都度保管します。
手順5: 薬の受け取り
処方箋薬は病院構内の薬局で受け取るのが原則で、市販範囲なら院外の薬局の方が安いこともあります。
手順6: 帰国後の請求
発票の原本、診断証明書、入院した場合は退院サマリーを保険会社へ送ります。多くの会社は治療日から30日以内の連絡を条件にするため、旅の途中から写真を撮っておくのが安全です。
典型的なシーン
1. 旅の3日目の発熱
一般病棟で受付、検査、薬まで含めて150〜300元。翌日に改善がなければ国際医療部へ切り上げます。支払いは Alipay か現金。
2. 夜間の食あたり
夜間外来は主要病院で運用されています。輸液が必要になると500〜1,500元程度に膨らみ、ここで初めて「保険が効く枠」を実感する流れです。
3. 転倒で縫う外傷
処置と破傷風予防を含めて300〜800元。国際医療部なら英語で説明が完結し、領収も英文の書類がそろいます。
4. 持病の薬が旅の途中で尽きる
処方箋薬の再取得は現地のクリニック経由です。旅分を持参するのが原則で、足りない分の受診は国際医療部が確実です。
費用の内訳
- 一般病棟の外来(受付+診察+検査+薬): 100〜300元
- 国際医療部の診療: 300〜1,000元
- 私立国際病院の診療: 1,200〜2,000元
- 入院(1泊、都市・病院等級により): 2,000〜10,000元+デポジット前払い
- 救急車(120番): 市内は数十元〜。夜間・長距離で加算
- 応急の歯科: 300〜800元
- 国外への医療搬送: 5万〜20万米ドル
よくある失敗
- 発票を捨てる: 感熱紙の控えは褪色し、原本がないと請求が通りません。当日中に撮影し、原本は旅の間保管です
- 入院の前に保険会社へ連絡しない: 保険会社経由で手配されていない治療は、請求時に拒まれることがあります。入院の判断がついた時点でアシスタンス窓口へ
- 一般窓口と国際医療部を取り違える: 同じ病院でも窓口・言語・価格・カード対応が別です。英語が要るなら最初から国際医療部へ
- 現金とモバイル決済なしで出かける: 一般窓口は外国カードを通さないことが多く、Alipay か現金が支払いの現実解です
- 補償の実体を見ずに保険を付ける: 医療費の補償があっても搬送が除外されていたり、免責額が高かったりします。表紙ではなく補償明細を読みます
代替手段とトレードオフ
- 保険なしで行く: 軽症の範囲なら現実的です(外来は数百元)。ただし搬送・長期入院のリスクを全額引き受けます
- クレジットカード付帯の保険: 自動付帯か利用付帯か、補償額が医療費10万米ドル級かどうかで価値が分かれます。旅費のカード払い条件を確認
- 現地の私立国際病院を直接使う: 価格は高いものの、当日受診・英語対応・直接精算がそろった体験になります。都市に着いた時点で最寄りを調べておきます
- 薬局で済ませる: 市販の範囲なら10〜40元で終わります。受診の判断材料として、熱が3日続くか、痛みが増すかの2点を境にします
現地の事情と習慣
救急は120番で、公営の搬送網が都市部では機能しています。病院の受付は朝の開設直後と午後の再開直後に混み、祝日連休の前後は外来が短縮されることがあります。診察室への同席は基本的に1人までで、順番は掲示板と呼び出し番号で管理されます。支払いのたびに窓口へ戻る二度三度の往復が中国の病院の設計なので、時間には余裕を持って行きます。
最新情報の確認方法
医療の価格と制度は年ごとに動きます。最新は次で確認してください。
- 国家衛生健康委員会: http://www.nhc.gov.cn
- 救急: 国内は120番(警察は110、火災は119)
- 加入保険会社の24時間アシスタンス: 保険証カードの裏面に記載の番号
- 各国大使館・領事館の医療機関リスト: 滞在都市の英語対応病院の一次情報
- 主要病院の公式サイト: 国際医療部の受付時間と対応言語
まとめ
旅行者が中国で受診する場合の構図は単純です。公的保険は効かない、外来は安い、重症と搬送は桁が違う、支払いは前払い、請求は発票の原本。この5点を前提に、医療補償10万米ドル以上+搬送込みの保険を1本持ち、領収の原本を旅の間保管すれば、病気のトラブルは金額でも手続きでも管理可能な範囲に収まります。保険の判断は外来の安さではなく、搬送の桁で下してください。
よくある質問
保険なしで受診できますか?
できます。全額自費の前払いで、外来なら数百元で済むことがほとんどです。ただし入院・搬送級の事案では自己負担が天価になります。
病院で英語は通じますか?
一般病棟は限定的です。主要公立病院の国際医療部と私立国際病院なら英語対応のスタッフがいます。
支払いにクレジットカードは使えますか?
国際医療部と私立病院なら使えることが多いです。一般窓口は現金か Alipay/WeChat Pay 中心で、外国カードは通らないことがあります。
120番を呼ぶと費用はいくらですか?
市内の公営搬送は数十元程度からで、夜間や長距離、特殊な対応で加算されます。搬送後の治療費とは別の請求です。
薬は日本から持ち込むべきですか?
処方箋薬は旅分+予備を持参が原則です。市販の範囲は現地の薬局が安く、処方箋も不要です。
請求はいつまでにすればいいですか?
多くの保険会社が治療日から30日以内の連絡を条件にします。治療のたびに発票を撮影し、帰国後は原本を早めに送ります。
入院デポジットは戻りますか?
精算時に過払い分は戻ります。デポジットの受領書も請求書類の一部になるため、捨てずに保管します。
予防接種は受けるべきですか?
破傷風の有効期限と、季節のインフルエンザが基本線です。詳細は渡航医学の外来で渡航先・期間に合わせて確認してください。
価格と制度の細部は年ごとに改定されます。受診の前後に各病院と保険会社の公式情報で再確認を。最終確認:2026年9月5日。
